『どこか遠くの話をしよう』。〜2巻完結っていいよね〜
こんにちは、おちゃです。今日は漫画のお話です。
6月30日。『僕らはみんな河合荘』の新刊発売日だったので、夜中に本屋さんに行きました。
ついでに漫画コーナーをチェックして、「なにか短めの面白い漫画ねーかな」と探しましたところーー日本には、本当に豊かな漫画文化があると思うのですが、それはいくつかの長期連載タイトルよりも、作者の怨念が込められた短い無数の良作によるところが大きいと思うのですがーー、こういうものを見つけました。
『どこか遠くの話をしよう』。
作者は須藤真澄さん。今年で御年53のベテラン作家さんですが、読んでいるときは分かりませんでした。
掲載誌は月刊コミックビーム(エンターブレイン)。単行本は、2017年から2018年にかけて、上下2巻完結で刊行されました。
(以下、本編のネタバレを含みます)
〜あらすじよりちょっと長い作品解説〜
作品内の描写からわかることですが、舞台は南米ペルーのとある集落。時代は1851年です。
幼い頃に父を亡くし、その時以来「物のはなす"声"」がわかるようになった少女、チロ。
おばあさんと一緒に暮らしています。ですが、そのおばあさんは話すことができません。
チロは、身の回りの物がおばあさんの気持ちを代弁してくれるのを聞いて、畑仕事やアルパカ・リャマの牧畜、料理をしながら一緒に生活しています。
そんなチロのもとへ、突然、白髪白人の男が現れます。なんの前触れもなく、突然、チロのうちの納屋に彼は横たわっていました。
彼は右足を骨折し、すべての記憶を失っていました。そして、言葉も通じません。
チロは物の声を聞くことができます。
彼はカバンを一つ持っていましたから、そのカバンや中身の声を聞くことで、チロは彼のことを少しずつ知っていきます。
村の住人は、はじめこそ彼のことを警戒していましたが、少しずつ仲間として受け容れていきます。
チロは、「名前がない」という彼に、髪の色から「プラティーナ」という名前をつけてあげました。
プラティーナにチロはよくなつきました。幼い頃に失った父の面影を重ねているのだと、村の誰もが噂しました。
やがて、チロがプラティーナを納屋の外へ連れ出すと、広がる山々の光景に、プラティーナは心打たれました。チロとプラティーナはそのとき、「うつくしい」という言葉を互いに理解しました。
そうして少しずつ、プラティーナは言葉を覚えていきました。
ある日、プラティーナの持ち物をいよいよすべて確認しよう、となりました。
その中には、汗拭い、服の上下、オルゴール、リボン、かぼちゃの種……そんなガラクタばかりが詰まっていました。
チロはひとつひとつ、物の声を聞きます。そして解き明かされていく、プラティーナの過去。
なぜ彼は、突然この村に現れたのか。
彼の目的は何だったのか。
そして、彼の「大切な人たち」の記憶とはーー。
というお話です。
プラティーナに隠された秘密については、ぜひご自身の目でお確かめください。
さて、この2巻完結の物語ですが、非常に収まりよく、また下巻の内容が実に気になる形で上巻が終わるなど、完成度の高い展開と、ハートフルな内容になっています。
特に感動を呼ぶのは下巻のプラティーナの秘密とそれ以降なので、あまり多くを語れないのは残念ですが、それにしても実に良い小品だと言えます。
私は個人的に1巻完結、もしくは2巻完結くらいの短い漫画というものが大好きです。多くの場合、そのような作品はアクションがやや控えめで、少年マンガ誌の週刊連載に求められような一話ごとの大ゴマの見せ場などはありません。ゆるやかな情緒の起伏によって、物語の歯車が少しずつ回転するような作品たちが多いです。
……という話をしようとして本棚を見たのですが、意外と1巻ものが多いですね。1.5冊分くらいのボリュームの1巻ものが多く、2巻完結はありませんでした。
人から借りて読んだものですと、五十嵐大介の『魔女』(1〜2巻、小学館IKKI COMICS)なんかが非常に良かった記憶があります。
1〜2巻で終わる漫画は、もともとその長さで閉じたものとして設計されているため、隅から隅まで味わうことができるという良さがあります。
短くまとまった中に、充実した世界観と空気を蓄えこんだような作品たちというのは、実は漫画コーナーにいけば無数にあります。
しかし、ある意味気軽に読めそうであるという短編特有の性格にもかかわらず、無数にあるがために、なかなか「これを読もう」という動機を誘発しないことも多いです。
漫画好きでない場合、意外と手に取らないことが多かったりします。(私は、先述の『魔女』などたくさんの漫画を教えてくださった漫画大好きな先輩のおかげで、そういう世界の面白さを知ることになりました。)
ですので、皆さんおすすめの「短い漫画」がありましたら、教えてくださると嬉しいです。
個人的に激推しの、『世縒りゆび』(全一巻、著・騎崎サブゼロ、徳間書店、絶版)という作品もあるのですが、その話はまた今度にします。といって、話すことはずっとないかもしれませんが。
『世縒りゆび』も最高なのですが、手に入れやすさで言えば『どこか遠くの…』が一分の利ありというところですから、気になった方は、ぜひお手にとってみてください。
チロとプラティーナの関係性は、刺さる人にはとても刺さると思いますよ。
では。
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